「越境EC」という言葉をご存知でしょうか?
越境ECとは、インターネットを活用して国や地域をまたいで利用できるEC(電子商取引)のことを指します。
日本の人口は年々減少しており、海外での販売に力を入れていきたいという企業は多いでしょう。
この記事では、越境ECに関する基本的な知識、越境ECをはじめるにあたって準備すべきことや注意するべき点について解説します。
越境ECとは?
越境ECとは、インターネットを利用し、複数の言語や通貨に対応しているネットショップを通じて行うグローバルな電子取引のことを指しています。
一般的には、海外のユーザーに向けて日本の商品を販売する、という形のビジネスと捉えられます。
最近は、海外のECモールに商品を出品して海外の消費者へ販売するという形態も広義の越境ECに含まれることがあります。
越境ECは、大きく分けて以下の4つのタイプに分類されます。
- 自社のECサイト
- 海外のECモールを理由
- 保税区の活用
- 代行販売の活用
➊ 自社のECサイト
自社で運営するECサイトを越境ECに対応させて構築、運用するタイプのものです。
対象とする国や地域を決めて、言語、通貨、決済システムなどを海外のニーズに合わせて構築していきます。
越境ECサイトでの利用に特化している専用のECカートシステムが用いられることも多いです。
❷ 海外のECモールを利用
海外のECモールに商品を出品する方法です。
ECモールの中には越境ECが認められているところもあるため、日本からの越境ECが認められているオンラインショッピングモールを利用することで海外の顧客に商品を届けることができます。
AmazonやeBay、Tmall Global、JD Worldwideなどが主な越境EC可能なオンラインショッピングモールです。
❸ 保税区の活用
中国を対象としている越境ECでよく用いられる方法です。
中国の保税区にある倉庫に処品を保管しておいて、ECサイトで中国のユーザーから商品の購入手続きが行われた後すぐに倉庫から配送することで、配送時間やコストを抑えることに成功しています。
❹ 代行販売の活用
海外への代行販売事業を行っている業者に商品を買い取ってもらい、業者を経由して海外の消費者へ商品を送るという方法です。
越境ECに対応しているECサイトを開発したり、海外のオンラインショッピングモールに出店・出品したりする手間やコストを抑えられるというメリットがあります。
その一方で、代行販売業者は手数料・配送料などのコストを顧客への販売価格に上乗せするため、商品の価格が高くなってしまうのがネックとなります。
顧客と直接コミュニケーションを取ることができない分、顧客の情報を得るのが難しいのもデメリットのひとつです。
越境ECの市場規模
越境ECの市場規模
越境ECの市場規模は、近年拡大傾向にあります。
経済産業省の報告書によると、2017年から2023年の間でEC化率は大幅に拡大しており10.4%➡22.0%に推移している状況です。

次に、国別のEC市場規模について見ていきましょう。
2019 年の国別のBtoC-EC市場規模トップ 10 を下記に示しています。

中国が 1 兆 9,348 億 US ドル、続いて米国の 5,869 億 US ドル、英国の 1,419 億 US ドルになります。
中国の市場規模の大きさが際立っており、第 2 位の米国とは 3 倍以上の開きがあります。
越境ECが拡大する背景
越境ECが今後も市場規模を拡大していく背景には、下記の要因が挙げられます。
- 世界のインターネット普及率が年々上昇している
- インバウンド観光客のリピート
- 日本製品への信頼度が高い
1つずつ確認していきましょう。
➊ 世界のインターネットの普及率が年々上昇している
まず前提として、インターネットの普及率が世界的に年々高くなっていることが挙げられます。
2019年の世界のインターネット普及率は56%で、前年と比べ10%も高い数値となっています。
その理由としては、低価格で購入できるスマートフォンが広く普及したことが主要な理由のひとつと考えられます。
発展途上国でもスマートフォンが普及し、モバイルデバイスからインターネットに接続できるようになったことで、普及率が高くなっているのです。
特に、ASEAN地域やアフリカの新興国での普及率の増加が顕著であることがわかっています。
これからも増え続けていくと考えると、越境EC市場もそれに合わせて拡大していくと予想されます。
海外諸国でのEC消費の伸長が止まらないことも、越境EC市場規模の拡大に拍車をかけています。
アメリカでもヨーロッパでも、そして中国でも、EC消費は2桁成長を維持しています。
❷ インバウンド観光客のリピート
新型コロナウイルス感染症の流行により海外渡航が制限されるまでは、訪日外国人の数は着実に増えていました。
観光で日本を訪れた海外からの観光客が日本の家電製品や雑貨、食料品、衣類などさまざまな商品を購入・利用して気に入り、帰宅した後に越境ECサイトを使って同じ商品をリピート購入する…という「インバウンド観光客のリピート」も、越境EC市場の規模を拡大する要因の1つです。
コロナ禍の中では日本への旅行も難しくなっていますが、訪日する代わりにインターネットを通じて日本の製品を購入するようになったケースも見られます。
❸ 日本製品への信頼度が高い
また、海外では日本製品への信頼度が高いことが越境ECサイトの利用につながっているようです。
越境ECサイトの利用がとても多い中国ではもともと、インバウンド観光客による日本製品の売上よりも、越境ECサイトを利用した売上の方が高かったというデータもあります。
越境ECサイトを準備する方が、海外に実店舗を出店するよりもずっと低コストで事業をはじめられることも越境EC市場の拡大に寄与しています。
海外に直接実店舗を出店するためには、まず地元の企業との合弁会社を設立したり出店申請のための複雑な手続きを行ったりする必要があり、多くの時間とコストがかかります。
また仮に出店したとしても、マーケティング不足で事業に失敗してしまうリスクもあります。
越境ECサイトの運営であれば、サイトの構築やシステムの導入などを含めても数万円から数十万円程度の費用でスタートを切ることができます。
煩雑な手続き等も必要ないため、コストだけでなく人的・時間的リソースも削減できるのです。
越境ECのメリット
世界的なEC市場の急成長が続く中、越境ECも同様に年々成長を続けています。
世界的な拡大が続く越境EC事業にはどんなメリットがあるのでしょうか?
メリット①:日本以外での獲得が見込める
先述しているように、少子高齢社会である日本では、残念ながら市場の規模は全体的な縮小傾向にあります。
インターネットの普及や新型コロナウイルスの流行によってEC市場は成長していますが、人口のバランスを考えると、日本国内で顧客を増やすのには限界があるといえます。
しかし世界に目を向けてみれば、若い世代が多く購買力の高い市場はたくさんあります。
たとえば中国の人口は日本のおよそ10倍ですし、ASEAN地域の国々も人口が多いところばかりです。
欧米市場も購買力が高いため、販路を拡大できればそれだけの利益を見込めます。
日本では人口の先細りが懸念されていますが、世界的に見れば全体の人口は右肩上がりで増加していくことが見込まれており、今後30年の間に世界の人口は25%ほど増えると予想されています。
つまり、それだけ越境EC市場も拡大していく可能性があるのです。
メリット②:日本からの競合参入の障壁が高い
どんな商品を取り扱うかにもよりますが、海外の顧客から見れば日本製の商品を扱うECサイトはまだまだ少ないのが現状です。
つまり、日本市場でのビジネスよりも競合するライバルが少なくなる可能性が高いのです。
日本国内では競合する他社製品が多いために、細かい部分の差別化や価格競争の激化が進んでいます。
ですが越境ECではライバルとなる他社製品の流通が少ない分、商品そのものの価値や開発ストーリー、企業の歴史、「日本製品である」というブランド力など、高価格帯でのブランディングを存分に活かせます。
既にレッドオーシャンである国内市場で勝負をするよりも海外での出店を検討する企業も今後増えていくでしょう。
越境ECのデメリット
日本国内向けのビジネスにはないメリットも多い越境ECですが、一方でデメリットもいくつかあります。
- 輸送コストが高額
- 国や地域によってルールが違う
- トラブルの発生や対処が難しい
デメリット①:輸送コストが高額
越境ECにおける大きなデメリットのひとつが輸送コストの高さです。
一般的に、越境ECでは注文のあった商品を日本から海外へ発送することになります。
当然、国内から国内への発送よりも輸送にかかるコストは高くなってしまいます。
海外ユーザーにとっては、高い送料がネックとなる可能性もあります。
コストが高くなるだけではなく時間もかかるため、若干ではありますが紛失・破損などのリスクも国内への発送より高くなってしまいます。
デメリット②:国や地域によってルールが違う
越境ECでは、商品を販売している国や地域の法律や規制といったルールに逐一対応しなければいけません。
たとえば、EU各国に適用されるGDPRには個人情報についての厳しい規制があります。
商品を販売する対象の国の法律や規制をしっかり把握し、ルールに則って対応する必要があります。
マーケティングについても、国や地域によって効果的な施策を講じなければいけません。
自社のECサイトを越境ECに対応させるにしても、現地企業のオンラインショッピングモールに出店するにしても、翻訳等のローカライズが必要になります。
言語や通貨はもちろんのこと、決済手段についても国や地域ごとにメジャーなものは違います。
もし自社で越境ECサイトを運用するのであれば、商品の価格帯とターゲットとして想定している顧客層が主に利用する決済手段をあらかじめ調べて対応しておく必要があります。
その分コストがかかることは覚えておきましょう。
デメリット③:トラブルの発生や対処が難しい
越境ECサイトの決済では海外で発行されたクレジットカードを利用することが多いため、不正利用をはじめとした各種トラブルが日本国内での取引以上に起こりやすいという点もデメリットのひとつです。
また起きてしまったトラブルに対する対処も国内で起こったトラブル処理以上に難しいため、注意しておく必要があります。
越境ECを始める手順
越境ECを始めるには、いろいろな準備が必要になります。
越境ECを始めるまでの簡単な手順をご紹介します。
まずは、どんな商品を販売していくかを決めます。
国によっては輸送できないものもありますので、そもそも輸送できる商品かどうかをしっかり調べておきましょう。
越境ECで販売する商品としてはやはり現地では購入できないものが人気なので、その国ではなかなか購入できないような商品を選ぶのがおすすめです。
商品の準備が終わったら、どんなターゲット層を想定してビジネスを行うのかを検討します。
ターゲットがあいまいで定まっていないと、販売促進のためにはどうすればいいかも決められません。
商品の販促をしっかり行うためにも、出身国や年齢、収入、家族構成や趣味など、細かい部分まで設定を練り込みターゲット層を決めましょう。
最後に、どのような形で越境ECを行うかを決めましょう。
越境ECのために出店するにはいくつかの方法があります。
独自の越境ECサイトを構築する場合、日本でつくるのか現地で法人を設立してつくるのかといった問題もあります。
現地のモール型ECに出店するのか、日本国内の越境ECモールを利用するのか、越境EC進出を支援・サポートしてくれるサービスを利用するのか……どのような形態で越境ECサイトを運用するのか選択する必要があるのです。
コストの削減を重視したり、なるべく短い準備期間で販売をスタートするために手間がかからない方法を選択したりと、選択する際のポイントとなる点はさまざまです。
販売する商品や自社のブランディングなど、いろいろな点から検討してみてください。
越境ECの注意点
越境ECは、成長の可能性を秘めたとても魅力的なビジネスといえます。
ですが必要な知識もなく始めてしまえば、当然ながら成功しない可能性が高くなります。
越境ECに取り掛かる前に確かめておきたい注意点は4点ほどあります。
- 越境ECに向かない商品がある
- 配送料は国内より大幅に高いことを認識する
- 世界情勢により為替が変動する
- 越境ECの始め方は複数存在する
1つずつ確認していきましょう。
➊ 越境ECに向かない商品がある
日本製品であれば何でも需要があるというわけではありません。
中には越境ECには不向きなサービスや商品もあります。
越境ECサイトではほとんどの商品やサービスを取り扱うことはできますが、海外のユーザーにとって魅力的な商品かどうかはまた別の問題です。
自社の商品やサービスが越境ECに適しているものかどうか、あらかじめ確認しておきましょう。
越境ECに向いている商品の一例としては、いわゆるデジタル商品が挙げられます。
オンラインゲームや電子書籍をはじめとした、デジタルで利用されるダウンロードコンテンツです。
ネット環境さえあればどれだけ遠い国のユーザーにもすぐに届けられますし、配送料などを気にする必要もありません。
支払いを含めオンラインですべて完結できますので、越境ECには特に適した商品です。
❷ 配送料は国内より大幅に高いことを認識する
先ほどもご紹介した通り、商品の配送料は国内よりもずっと高くなります。
例としてヤマト運輸の国際便を利用した際の料金を見てみると、10kgの荷物を関東からアメリカへ配送するのには8,850円もの配送料がかかってしまいます。
商品の大きさや形態によってベストな配送方法は違いますので、配送業者や利用できるサービスなどをそれぞれよく検討し、自社の商品の配送にベストだといえるものを探してみましょう。
❸ 世界情勢により為替が変動する
異種通貨でやり取りする越境ECでは、為替相場の変動によって売上も変わってしまいます。
たとえば円高の場合は売上を日本円に換金するため、受け取る利益が大幅にダウンしてしまいます。
もちろん逆に円安のときには売上アップが見込めますので、デメリットばかりというわけではありません。
❹ 越境ECの始め方は複数存在する
先ほどもご紹介した通り、越境ECの始め方は一通りではありません。
ひとつのやり方に固執せず、さまざまな方法の中から規模感やサービス等含め自社のビジネス・商品に合っているものを選びましょう。
越境ECの成功事例
最後に、越境ECビジネスの成功事例をご紹介します。
- 北海道商店
- Tokyo Fresh Direct
- ⾕京嚴選京都物産館
➊ 北海道商店
北海道商店は、北海道産の商品に特化した中国向けの越境ECプラットフォームです。
中国市場への進出を目指す日本国内の中小企業が低コスト・小ロットから中国向けビジネスをはじめられるプログラムで、中国側の運営スタッフが出品・アフターサービス・物流・中国ユーザー向けのSNS運営などをサポート。
❷ Tokyo Fresh Direct
東南アジア諸国では、新型コロナウイルスの流行に伴う外出の自粛から巣ごもり需要が高まり、食料品・日用品をECサイトから購入する人が増えていました。
それを踏まえ、シンガポールの顧客向けに日本産の生鮮食品を届ける越境ECサイトとしてオープンしたのがTokyo Fresh Directです。
❸ ⾕京嚴選京都物産館
コロナ禍により観光客が減りインバウンド需要が見込めなくなったこと、対面での商品販売が難しくなったことを受けて、日本への観光客が多い台湾向けに越境ECサイトをオープンしました。
宇治茶や京つけもの、和菓子など日本独自の食品や、陶磁器、漆器といった伝統工芸品など、親日家の海外ユーザーにとって魅力的な商品を揃えています。
まとめ
今回は、今後さらなる市場拡大が見込める越境ECについてご紹介しました。
注意したい点もあるものの、これから期待できるビジネスであることは間違いありません。
越境ECをお考えの際にはぜひ参考にしてください。